SAマウントカメラ・レンズをご愛用の皆さまへ | レンズ | SIGMA|株式会社シグマ
レンズ交換式カメラを開発・製造しているシグマがカメラシステムを終了させる告知を出して、告知をすること判断自体とその告知内容がとても丁寧で心証が良かったです。
前提
カメラシステムはカメラボディ自体と交換レンズおよびフラッシュなどのアクセサリからなります。
カメラシステムの導入にはカメラボディ + レンズで最低数万、熱心なユーザーは数十万・数百万という単位でお金をつぎ込みます。
カメラシステムは複数社が展開していますが、基本的に互換はないので熱心なカメラユーザーはこれから数年・十数年に渡って数十万〜数百万のお金を使う先を吟味して選び、決定しています。
またシグマという会社は撮像センサー (フィルムカメラでいうフィルム、カメラの根幹をなすパーツ) にFOVEONという他社とは一線を画す革新的なセンサーを採用しており、そのセンサーから得られるイメージはとても熱心なファンをひきつけています。
詳しくはメーカーのテクノロジー説明を読んでもらいたいのですが、一言で表すならば技術的な独創性ゆえに「XXXと比べて画質が良い・悪い」といった他のメーカーと同じ次元には立たずに、根本的に出てくるイメージそのものが違う、といったレベルの違いがあります。
終了告知自体の潔さ
カメラシステムに限った話ではないですが、莫大な資産を投じてきた既存ユーザーを刺激しないよう明示的に開発終了はアナウンスせずに、単に既存製品をディスコン (discontinued; 生産終了) させてフェイドアウトさせるに任せる、といった方針をとる会社が多いです。
実際、ユーザーは製品のリリースサイクルなどをもとに早いうちから「緩やかな死」を感じとって他システムへ移行しますし、すべてのユーザーに納得してもらえるようなアナウンスは難しい (なにせ大金を注ぎ込んできたものがほぼ泡になる) ですから、下手に行動を打つよりはひっそりと、というのは良し悪しはともかく合理的であるといえそうです。
そういった慣行・背景がありながらもきっぱりと終了をアナウンスする姿勢からは、システムそれ自体よりもシステムを作ってきたシグマという会社を信頼してくれているという自信が見えますし、ひいてはカメラシステムという息の長いプロダクトに対するビジョンの強さが伺え、ポジティブな印象です。
しかし単にアナウンスがあったからだけではなく、その内容が実に丁寧で真摯だったからだと思います。
告知の真摯さ
SAマウントカメラ・レンズをご愛用の皆さまへ | レンズ | SIGMA|株式会社シグマ
要旨としては:
- SAマウントは終了します
- Lマウントという新しいシステムを開発します
- Lマウントはこれまで要望を受けてきた製品 (フルサイズセンサー搭載のカメラ) を実現するために最適な仕様です
- 他社とのアライアンスを通じて最高のシステムにします
- SAマウントのレンズ生産は続けます
- Lマウントシステムのリリースまでに空白期間は設けません
- 既存のSAマウントをLマウントで使えるよう移行手段を用意します
……といった内容です。
この告知は、事実を端的に説明し表現を濁した点が無く、ユーザーが最も知りたい点、すなわち現行システムの将来 (いつまでに、どうなる)、新システムへの移行がどうなるか、に絞って書かれています。
簡潔でわかりやすいだけではなく、実はこの告知には「申し訳ありません」などの謝罪表現が一切使われていません。
これから作る新しいものは絶対に良い自信があるし、それに向けた滑らかな移行手段も用意するから安心して、という強いビジョンが伺えますし、それを根拠付けるシグマからのアクションが提示されているからこそ説得力のあるものになっているのでしょう。
また、新マウントへ変更してより素晴しいシステムを作っていく必要があるというシグマ側の事情も匂わせつつも言い訳がましく見えないのは、けっきょくこの判断は最高のカメラシステムをユーザーに提供したいからです、という視点に立っているからという点も見逃せないです。
感想
これだけ丁寧にアナウンスしても少なからず反発はあるでしょうし、かなりハイカロリーな決断だと思いますが、シグマのプロダクトに対するビジョンの強さを感じさせ、シグマ製品を愛用している自分のシグマに対する信頼感は増しました。
アナウンスからはユーザーに対するケアだけでなく、これから作ろうとするシステムに対する強い自信を感じられます。
ユーザーに寄り添う姿勢も、新しいものに対する自信も、どちらか一方だけでは片手落ちで、両方を兼ね備えているからこそ納得感のあるアナウンスになったのでしょう。
カメラ業界的には決して大きなパイではないシグマですが、確かな地位を築いており今回のアナウンスはさらにそれを磐石にするものと思います。
いち開発者としても感じるところがたくさんあり、業界は違えど、見習いたいところばかりです。